和歌と俳句

和泉式部

後拾遺集・冬
こりつみてまきの炭やくけをぬるみ大原山の雪のむらぎえ

金葉集・冬詞花集・冬待つ人の今もきたらばにかがせん踏ままく惜しき庭のかな

つれづれとながめくらせば冬の日も春の幾日にをとらざりけり

新古今集・冬
かぞふれば年の残りもなかりけり老いぬるばかり悲しきはなし

後拾遺集・恋
黒髪の乱れてしらずうちふせばまづかきやりし人ぞ恋しき

後拾遺集・恋
涙川おなじ身よりはながるれど恋をば消たぬものにぞありける

詞花集・恋
竹の葉に霰ふる夜はさらさらにひとりは寝べき心地こそせね

新古今集・恋
今日も又かくや伊吹のさしも草さらば我のみもえや渡らむ

後拾遺集・恋
かるもかき臥す猪の床のいを安みさこそ寝ざらめかからずもがな

後拾遺集・雑歌
休らひに真木の戸をこそささざらめいかに明つる冬の夜ならむ

水鶏だにたたく音せば真木の戸を心やりにも明てみてまし

天の川おなじ渡にありながらけふの雲ゐのよそに聞かな

人はゆき霧は籬に立どまりさもなかぞらに詠つるかな

後拾遺集・恋
津の國のこやとも人をいふべきにひまこそなけれ蘆の八重葺き

金葉集・秋
有明の月見ずひさに起きて行く人の名残をながめしものを

千載集・恋
有明の月見ずひさに起きていにし人の名残をながめしものを

新古今集・恋
枕だに知らねばいはじ見しままに君かたるなよ春の夜のゆめ

続後撰集・恋
身にしみて哀なるかないかなりし秋ふく風を音にききつる

七夕にかしてこよひのいとまあらばたちより来かし天の川浪

ゆふぐれは人のうへさへ歎かれぬ待たれし頃に思ひあはせて

かはらねばふみこそみるに哀なれ人の心はあとかたもなし

なこそとは誰かはいひしいはねども心にすふる関とこそみれ

後拾遺集・恋
白露も夢もこの世もまぼろしもたとへていへばひさしかりけり

後拾遺集・恋
ひたすらに軒のあやめのつくづくと思へばねのみかかる袖かな

後拾遺集・恋
人の身も恋にはかへつ夏虫のあらはに燃ゆと見えぬ許ぞ

後拾遺集・雑歌
やすらはで立つに立てうき真木の戸をさしも思はぬ人もありけり