和歌と俳句

新古今和歌集

西行法師
おのづからいはぬを慕ふ人やあるとやすらふ程に年の暮れぬる

上西門院兵衛
かへりては身に添ふものと知りながら暮れ行く年を何慕ふらむ

皇太后宮大夫俊成女
へだてゆく世々の面影かきくらし雪とふりぬる年の暮かな

大納言隆季
あたらしき年やわが身をとめくらむ隙行く駒に道を任せて

俊恵法師
歎きつつ今年も暮れぬ露の命いけるばかりを思出にして

小侍従
思ひやれ八十路の年の暮なればいかばかりかはものは悲しき

西行法師
昔おもふ庭にうき木を積み置きて見し世にも似ぬ年の暮かな

摂政太政大臣良経
いそのかみ布留野の小笹霜を経て一夜ばかりに残る年かな

前大僧正慈圓
年の明けて憂き世の夢の醒むべくは暮るとも今日は厭はざらまし

權律師隆聖
朝毎のあか井の水に年暮れて我が世のほどのくまれぬるかな

入道左大臣実房
いそがれぬ年の暮こそあはれなれ昔はよそに聞きし春かは

和泉式部
かぞふれば年の残りもなかりけり老いぬるばかり悲しきはなし

後徳大寺左大臣実定
いしばしる初瀬の川のなみ枕はやくも年の暮れにけるかな

藤原有家朝臣
行く年を雄島の海士の濡れごろも重ねて袖に波やかくらむ

寂蓮法師
老の波越えける身こそあはれなれ今年も今は末の松山

皇太后宮大夫俊成
今日ごとに今日や限りと惜しめどもまたも今年に逢ひにけるかな