新古今集
わきてなど庵守る袖のしをるらむ稲葉にかぎる秋の風かは
新古今集
秋ふかき淡路の島のありあけにかたぶく月をおくる浦かぜ
新古今集
長月もいくありあけになりぬらむ浅茅の月のいとどさびゆく
新古今集
木の葉散る宿にかたしく袖の色をありとも知らでゆく嵐かな
新古今集
やよ時雨もの思ふ袖のなかりせば木の葉の後に何を染めまし
新古今集
もみぢ葉はおのが染めたる色ぞかしとそげに置ける今朝の霜かな
新古今集
霜さゆる山田のくろのむら薄刈る人なしにのこるころかな
新古今集
網代木にいさよふ波の音ふけてひとりや寝ぬる宇治のはし姫
新古今集
庭の雪にわが跡つけて出でつるを訪はれにけり人や見るらむ
新古今集
ながむればわが山の端に雪しろし都の人よあはれとも見よ
新古今集
年の明けてうき世の夢の醒むべくは暮るとも今日は厭はざらまし
新古今集・哀傷
ふるさとを恋ふる涙やひとり行く友なき山のみちしばの露
新古今集・哀傷
思ひ出づる折りたく柴と聞くからにたぐひも知らぬ夕煙かな
新古今集・哀傷
皆人の知りがほにして知らぬかな必ず死ぬるならひありとは
新古今集・哀傷
昨日見し人はいかにと驚けどなほながき夜の夢にぞありける
新古今集・哀傷
蓬生にいつか置くべき露の身は今日のゆふぐれ明日のあけぼの
新古今集・哀傷
我もいつぞあらましかばと見し人を忍ぶとすればいとど添ひ行く
新古今集・哀傷
そこはかと思ひつづけて来て見れば今年の今日も袖は濡れけり
新古今集・羇旅
東路の夜半のながめを語らなむみやこの山にかかる月かげ
新古今集・羇旅
立田山秋行く人の袖を見よ木木のこずゑはしぐれざりけり
新古今集・羇旅
さとりゆくまことの道に入りぬれば恋しかるべき故郷もなし