和歌と俳句

紫式部

新古今集・雑歌小倉百人一首
めぐりあひて見しやそれともわかぬ間に雲隠れにし夜半の月かげ

千載集・離別
鳴きよわるまがきのもとめがたき秋の別れやかなしかるらん

千載集・雑歌
露しげき蓬が中の虫の音をおぼろけにてや人のつたへん

いづれとぞ色分くほどに朝顔のあるかなきかになるぞわびしき

西へゆく月のたよりに玉づさの書き絶えめやは雲の通ひ路

嵐吹く遠山里のもみぢばは露もとまらむことのかたさよ

新古今集・夏
郭公こゑ待つほどはかた岡の森のしづくに立ちや濡れまし

新古今集・離別
北へ行く雁の翅にことづてよ雲のうはがきかき絶えずして

あひ見むと思ふ心は松浦なる鏡の神や空に見るらむ

三尾の海に網引く民のてまもなく立ち居につけて都恋ひしも

磯がくれおなじ心に鶴ぞ鳴く汝が思ひ出づる人や誰ぞ

新古今集・羇旅
かき曇り夕立つなみの荒ければ浮きたる舟ぞしづごころなき

知りぬらむ往来にならず塩津山世に経る道はからきものぞと

老つ島島守る神や諫むらむ浪も騒がぬ童べの浦

ここにかく日野の杉むら埋む雪小塩の松に今日やまがへる

ふるさとに帰る山路のそれならば心やゆくと雪も見てまし

春なれどしらねのみ雪いや積り解くべきほどのいつとなきかな

みづうみに友呼ぶ千鳥ことならば八十の湊に声絶えなせそ

四方の海に塩焼く海人の心からやくとはかかるなげきをやつむ

紅の涙ぞいとどうとまるる移る心の色に見ゆれば

千載集・哀傷
いづかたの雲路と知らば尋ねましつらはなれけん雁のゆくへを

新古今集・哀傷
見し人の煙となりし夕べより名ぞむつましき塩釜の浦

千載集・雑歌
誰が里の春のたよりにうぐひすの霞にとづる宿を訪ふらん

消えぬ間の身をも知る知る朝顔の露とあらそふ世を嘆くかな

若竹の生ひゆく末を祈るかなこの世を憂しと厭ふものから