和歌と俳句

平兼盛

十一 十二

子の日して 世のさかゆべき ためしには けふのみゆきを 世には残さむ

後拾遺集
道とをみ 行きては見ねど 櫻花 心をやりて 今日はくらしつ

花盛り たのめし人も あるものを かく咲けりとも 告げずやあらまし

山桜 あくまでけふは 見つるかな 花ちるべくも 風ふかぬよに

思ひつつ 寝つれば見えつ 春の夜の まさしき夢に むなしからすな

山城の こまのわたりを 見てしがな うりつくりけむ 人の垣根を

天の原 曇ればかなし 人知れず たのむこのもと 雨ふりしより

後拾遺集
浅茅生の 秋の夕暮 鳴く虫は わがごと下に 物や悲しき

詞花集・秋
荒れはてて 月もとまらぬ 我が宿に 秋の木の葉を 風ぞふきける

山隠れ 消えせぬ雪の かなしきは 君まつのはに かかるなりけり

拾遺集・別
たよりあらば いかで宮こへ 告げやらむ 今日白河の関を越えぬと

うらめしき 里の名なれや 君にわが あはづの原の あはでかへれば

あはづ野の あはでかへれば 瀬田の橋 こひてかへれと 思ふなるべし

後拾遺集・雑歌
世の中を 今はかぎりと 思ふには 君こひしくや ならむとすらむ

春霞 たなびく空は 人知れず わが身よりたつ 煙なりけり

石間より 出づる泉ぞ むせぶなる 昔を恋ふる こひにやあるらむ

おなしくは 告げてをこひむ 難波女の しのびにのみは もえて渡らじ

見ぬ人の 恋ひしきときは おのづから われのみならず 誰も知るらむ

浜千鳥 かひなかりけり つれもなき 人のあたりは なき渡れども