和歌と俳句

平兼盛

十一 十二

鶯の 初音にけふは 驚きて 春の山辺に をりくらしてむ

後拾遺集
梅が香を たよりの風や 吹きつらむ 春めづらしく 君がきませる

沢水に かはづのこゑは おいにけり 遅くやからむ 春の小山田

後拾遺集
ひとゝせに ふたゝびも来ぬ 春なれば いとなく今日は 花をこそ見れ

浦凪に 釣りのをたれて くる我ぞ いたくなたちそ 沖つ白波

荒波の かけくる岸の 遠ければ かさまにけふぞ ふなわたりする

川風の 吹きくるかげに 吹きくづし はらふることぞ 涼しかりける

たなばたの 逢ふ夕暮れの ころも糸を 秋の尾花に 幾夜へぬらむ

秋の野に まねく尾花に はかられて かりに来つれと けふはくらしつ

朝露に 我そぼちくる 菊の花 摘みしもしるき ここちこそすれ

後拾遺集
からにしき 色見えまがふ もみぢばの 散る木の下は 立ち憂かりけり

詞花集・冬
深山には あらしやいたく 吹きぬらん 網代もたわに もみぢつもれり

奥山の ゆづるはいかで をりつらむ あやめもしらぬ 雪のふれるに

あたらしき 年のはじめに 逢ひくれど この春ばかり たのしきはなし

人知れず 待ちしもしるく 鶯の 声めづらしき 春にもあるかな

あしひきの 山かたつける いへゐには まつ人さきに 若菜をぞつむ

花みると 家路をおそく 帰るかな まち時すぐと 妹やなげかむ

後拾遺集
花見ると家路におそく帰るかな待ち時すぐと妹やいふらん

いろにあける 年しなければ さくら花 けふひぐらしに 折りてこそみれ

ときはなる 花こそ見ゆる わがやどの 松にこだかく 咲ける藤波

深山いづる まづ初声は ほととぎす わがやど近く うちもなかなむ