和歌と俳句

平兼盛

十一 十二

真菰かる みつのみ牧の 駒のあしの はやくたのしき よをも見るかな

わぎもこが 家路ふみわけ しかすがの 渡りがたくも おもほゆるかな

武蔵野を 霧の晴れ間に 見渡せば ゆくさき遠き ここちこそすれ

後拾遺集・賀
武蔵野を 霧の絶え間に 見わたせば 行く末とをき 心地こそすれ

たまくしげ ふたむら山の 月影は よろづ代をこそ 照らすべらなれ

寄る波の 数をぞ知らず なりにける 籬の島の 間近けれども

ぬま水も こほりにけらし 来し方の 山路もいまは たえやしぬらむ

あし鶴の 群れゐるすゑの 松山は いくそ重ねの 千歳なるらむ

白波の のどけき浦の 姫松は 千歳の数ぞ そひて見えける

このなつの うすきこほりは ゆくすゑの 重ねてかかる をりを頼まむ

なよたけの 夜長きつゑを つきてこそ やほよろづ代の 秋はかぞへめ

よろづ代の 山に根ざしし はじめより 君がつゑにと 見えにけらしも

よろづ代の よよの緑も 清きかな これや千歳の 澄める水の色

千代をへて 岩の上なる 蔓さへぞ 君が千歳に つたふべらなる

しら鶴の 天の原より 飛びつるは 遠き心を しれるなるべし

昔より あふぎつたふる 袖なれば 君が手にてぞ よろづ代は経む

君がへむ よろづ代の数 かぞふれば ただかたはしの 千歳なりけり

濁りなく 千代をかぞへて すむ水に 光をそふる 秋の夜の月

むらさきの 雲とぞ見ゆる 月影に 水の面てらす 岸の秋萩

拾遺集・賀
千とせとぞ 草むらごとに 聞ゆなる こや松虫の 声にはあるらん

よろづ代と あまの空まで きこゆるは 夜深き松の しらべなりけり