和歌と俳句

平兼盛

十一 十二

わが宿の 庭の若草 茂りあひて ながめに日をも 暮すころかな

水さむく 風のすずしき わが宿は 夏といふことは よそにこそきけ

川風の すずしからずば 水無月の 払へばかりに もの憂からまし

大空の こととは見れど たなばたは 衣きぬかし 幾よ経ぬらむ

拾遺集・秋
よもすがら 見てを明かさむ 秋の月 今宵の空に 雲なからなん

ほととぎす 声めづらしく うゑしたを 稲葉もそよと 今日はかるかな

をみなへし 花見に来つる 秋の野を あやなくまねく 尾花なりけり

隠るべき 木の葉なければ 神無月 時雨に袖を 濡らしてぞ行く

鴛鴦のねの いたく鳴きつる 朝ぼらけ 池は氷に とぢてけらしも

人知れず 春をこそ待て わがやどに 降り積む雪を はこぶ人なみ

拾遺集・冬
人知れず春をこそ待て払うべき人なき宿に降れる白雪

籬より こずゑを見つつ 梅の花 春のとなりに 今日は来にけり

群れ立ちて めもはるの野に ひく松の 千歳の春は たがためにそは

妻恋ふる きぎすの声も たえなくに はかなく今日は いへぢ暮しつ

はかなくも 今日はやまぢに 暮すかな かへらむ程に 花や散るとて

みちとせに ひらくる桃の 花ざかり あまたの春は 君のみぞ見む

むらさきの 雲うちなびく 藤の花 ちとせの松に かけてこそみれ

今日くれば 明日もきてみむ 梅の花 花ちるばかり 吹くな春風

花の木を 植ゑしもしるく 春くれば わが宿すぎて ゆく人もなし

拾遺集・雑春
世の中に うれしき物は 思ふどち 花見て過ぐす 心なりけり

枝たわに 八重山吹は 咲きにけり 井手の川辺を 思ひやるかな