和歌と俳句

平兼盛

十一 十二

ひととせは 春ながらにも 暮れななむ 花のさかりを あくまでも見む

ひきよせて 松こそたをれ 藤の花 まだ見ぬ人に 見せにやるとて

拾遺集・夏
住吉の 岸の藤波 我が宿の まつの梢に 色はまさらじ

年ごとに たなばたつめを 祈りつつ おほくの秋を 過ぐしつるかな

たなはたの 飽かぬ別れの かなしきに 今日しもなどか 君が来ませる

拾遺集・雑秋
たなばたの 飽かぬ別も ゆゝしきを 今日しもなどか 君が来ませる

来ぬ人を 呼びにはやらず わがやどの まねく尾花に まかせてぞみる

秋の夜の 月みるとのみ 明かしつつ 今宵もねてや 我はかへらむ

拾遺集・恋
秋の夜の 月見るとのみ 起きゐつつ こよひもねてや 我はかへらん

月影に 鹿のねきこゆ たかさごの 尾上の萩の 花や散るらむ

からくして 急ぎ刈りつる 山田かな いなおほせとりの うしろめたさに

あしひきの 山田のこずゑ 明日までと いなおほせとりの 思ふことたゆ

かりにくる 人はやとさす むかしより みやこのことは ゆかしけれども

何にかは 急ぎもゆかむ 夕暮れに 明日も越えなむ 山にやはあらぬ

数ふれば わが身につもる 年月を おくりむかふと なに急ぐらむ

拾遺集・冬
数ふれば 我が身に積もる 年月を 送迎と 何急ぐらん

ひごろへて 待ちしもしるく わがやどの 梅のこずゑに 春はきにけり

青柳の 繭にこもれる 糸なれば くる春のみぞ 色まさりける

山里に いへゐせしより ほととぎす 夜半の初音は 我のみぞ聞く

わか駒を あやめの草に ひきそへて 皐月も来れば 見ぬ時ぞなき

夏の日は 涼しかりけり 川風は はらふることも かくやなるらむ

残りなく 衣はかしつ たなばたに けふもせなこは 我いかにせむ

天の川 川瀬の風に たなばたも 夜の更け行くを 待ちやわたらむ