逢坂の 関にし春を とどめては 山のこなたは 霞まざらまし
冬こもる 吉野の山の 岩屋には 苔のしづくに 春を知るらむ
めづらしき 春にいつしか うちとけて まづものいふは 雪のした水
めつらしき 春にいつしか うちとけて まづものいふは うぐひすのこゑ
ほのかにも こずゑは見えし ふるさとを おもひやらする 朝霞かな
ひきわたす 大原山の よこ霞 すぐにのぼるや 煙なるらむ
宇治路ゆく すゑこそ見えぬ 山城の 木幡の関を 霞こめつつ
はる霞 隔つるころは 白波の 越すとも見えず 末の松山
秋沙ゐる うなかみかたを 見わたせば 霞にまがふ したの浮島
古巣より 若木の梅の 初花に わたりそむるは 鶯のこゑ
くれたけの よなよな雪の やや消えて もとのいくふし またかへるらむ
春風や 浪たつばかり 深ざらむ かたよりもせぬ 池の浮草
若布かる 春にしあれば うぐひすも 木つたひわたる 天の橋立
ひかずゆく 旅のいほりを たつごとに 聞きすてがたき うぐひすのこゑ
来まさずば さても散りなで 梅の花 なほ待ちかほに にほふさまみよ
梅の花 散らば散らなむ 散りてのち それゆゑならで ゆかむと思へば
またしとや 梅を見つつも とはざらむ ひらくるものを われが思ひは
かねてわれ おもひひらくる 梅が枝に ならぶ人なき 身なるべしとは
一枝も 折らぬとなりの 梅の花 にほひはえたる ここちこそすれ