ここのへの うちに匂へる 梅の花 訪へば散さじと 思ひしものを
ここのへの おなじみ垣の うちなれば あだには散らぬ 花とこそみれ
昔ありし わらやは宮に なりにけり 梅もや殊に かをりますらむ
梅の花 昔をしのぶ つまやとも 待ちがほにこそ 匂ひましつれ
こち風の 梅吹く方に 窓をあけて 匂ひをねやの 内に入れつる
紫も 朱もつらなる 庭のおもに まだ綠なる 玉柳かな
春雨に 柳のかみを あらはせて けづりながすは 風にぞありける
谷ちかき やどに来鳴くや うぐひすの 里なれそむる はじめなるらむ
よろづよの 春までさかむ やどの梅を 命もかなや たをりかざさむ
谷にても 終の友にや うぐひすの まだきに来つつ 我ならすらむ
妹がごと 恋ひしき花の ひらけなば 我こそささめ ねやのかざしに
思ひやれ 君がためにと まつ花の さきもはてぬに 急ぐ心を
逢ふことを 急ぐなりせば 咲きやらぬ 花をばしばし 待ちもしてまし
あだならず 守るみ垣の うちなれど 花こそ君に さはらざりけれ
ここのへの うちまで人を たづね入れば 花吹く風を いかがいさめむ
ももしきの 春にこころを とどめおきて かへらむ道に 踏みや惑はむ
花にあかで 道に惑はば とどめけむ 心の方へ かへれとぞ思ふ
君が住む やどのこずゑの 咲かぬ間に めづらしかれと 花たてまつる
みさへなり 散らでやむべき 花みれば やどのこずゑは 待たれざりけり
さくら花 見るにつけても なつかしき 散りなむ後の かねて惜しさに