年ごとに あられとぞ思ふ さくら花 見るべき春の 数も憂ければ
たづね来る 我こそ花を 花とみれ 人のよそめは 峰の白雲
はな咲かば 告げよといひし 山守の 来る音すなり 馬に鞍おけ
けふは雨 あすは霙と なりぬべき くもゐの桜 見む人もがな
雪とだに 見るべき花の などやさは 雨やみけれど 降らむとすらむ
折りえたる つま木こるをに ものまうす かりみねなるは 雲か桜か
いにしへは いつもいつもと 思ひしを 老いてぞ花に 目はとまりける
これきけや 花みるわれを 見る人の まだありけりと おどろかすなり
散りがたに なりにけるこそ 惜しけれど 花やかへりて 我を見るらむ
いまはとて 春のたのもを たつ雁の 雲に消えゆく 方をしぞ思ふ
千載集
天つ空 ひとつに見ゆる 越の海の 波を分けても 帰るかりがね
我が身は 帰るばかりぞ このもとに とまる心と ものがたりせよ
かへりぬる うさは花にぞ うれへつる とまる心は 見えばこそあらめ
とりそへて 植ゑし桜の さきさきに 一木さくにぞ 二木とはみる
手もかけぬ くもゐの花の かげにゐて 散る庭をのみ わがものとみる
吉野川 岩瀬の波に よる花や あをねが峰に 消ゆる白雲
吹き散らす こずゑの花を あまのはら 風まぜに降る 雪かとぞみる
散り果てて こずゑの花の 恋ひしきに われ慰めよ 峰の白雲
よそにのみ 思ふくもゐの 花なれば おもかげならで 見えばこそあらめ