暮れぬ間は 花にたぐへて 散らしつる 心あつむる 春の夜の月
花ゆゑに 長しと思はぬ 春の日を やがてくらさで 見する月かな
東路や 春のむかひに ゆく旅は 咲きあふ花に えこそちかはね
咲きまさる こずゑやあると たづねずば のどかにやどの 花は見てまし
おのづから 花の下にし やすらへば 逢はばやと思ふ 人も来にけり
詞花集
深山木の そのこずゑとも みえざりし さくらは花に あらはれにけり
山桜 散るも散らぬも 白雲の かかるかぎりは えこそ見わかね
さくら咲く こずゑを見れど よそなれば そなたの風を 待つと知らなむ
花さそふ 風を待ちえて うれしくば やがてとなりの 嘆きとを知れ
花さそふ やました風の 香をとめて 道にもあらぬ 道を踏むかな
くやしくも あさゐる雲に 謀られて 花無き峰に 我は来にけり
咲くかげの 水にさながら うつれるは 花のすがたの 池にぞありける
近江路や 真野の浜辺に 駒とめて 比良の高嶺の 花を見るかな
散りはてて 後や我が身に かへりこむ 花さくやどに とまる心は
さくら花 咲けるさかりは こずゑより ほかに心も 散らずぞありける
散りぬれば 程をへだつと 思へばや かつ見る花の かねて恋ひしき
わがやどの 花はねたくや 思ふらむ よそのこずゑに わくる心を
つねよりも 花のこずゑの ひまなきは たちや並べる 峰の白雲
さくら咲く こずゑは空の 白雲に まがひし花の 雪と降りぬる
けふいくか おなじところに ゐる雲と 見ゆるは花の さかりなりけり