千載集・春
霞しく春の潮路を見わたせばみどりを分くる沖つしら波
千載集・春
咲きぬやと知らぬ山路にたづね入る我をば花のしをるなりけり
千載集・夏
思ふことなき身なりせばほととぎす夢に聞く夜もあらましものを
千載集・夏
さみだれにぬれぬれ引かんあやめ草沼の岩垣浪もこそ越せ
千載集・秋
さまざまの花をば宿に移し植ゑつ鹿の音さへぞ野べの秋風
千載集・秋
夕されば小野の浅茅生玉散りて心くだくる風の音かな
千載集・秋
散りかかる谷の小川の色づくは木の葉や水のしぐれなるらん
千載集・冬
ひとり寝の涙や空にかよふらんしぐれにくもる有明の月
千載集・羇旅
はるばると津守の神をこぎゆけば岸の松風遠ざかるなり
千載集・恋
行き帰る心に人のなるればや逢ひみぬ先に恋しかるらん
千載集・恋
帰りつるなごりの空をながむればなぐさめがたき有明の月
千載集・恋
ながらへて変る心を見るよりは逢ふに命を替へてましかば
千載集・恋
をしみかねげにいひしらぬ別れかな月もいまはの有明の空
千載集・釈教
人ごとに変はるは夢のまどひにて覚むればおなじ心なりけり
新古今集・羇旅
日を経つつみやこしのぶの浦さびて波よりほかのおとづれもなし
新古今集・雑歌
昔より離れがたきはうき世かなかたみにしのぶ中ならねども
新古今集・神祇
今日まつる神のこころや靡くらむしでに波立つ佐保の川風
新古今集・神祇
あめの下みかさの山の蔭ならで頼む方なき身とは知らずや
新古今集・釈教
底清くこころの水を澄まさずはいかが悟りの蓮をも見む
新勅撰集・秋
すそのより みねのこずゑに うつりきて さかりひさしき 秋のいろかな
新勅撰集・賀
やちよへむ きみがためとや たまつばき 葉がへをすべき ほどはさだめじ
新勅撰集・釈教
くもりなく みがきあらはす さとりこそ まどかにすめる かがみなりけれ
新勅撰集・恋
くれなゐの なみだをそでに せきかねて けふぞおもひの いろにいでぬる
新勅撰集・恋
わがこひは あはでのうらの うつせがひ むなしくのみも ぬるるそでかな
新勅撰集・雑歌
いにしへの こひしきたびに おもふかな さらぬわかれは げにうかりけり
新勅撰集・雑歌
とへかしな 世のすみぞめは かはれども われのみふかき いろやいかにと
続後撰集・春
たとふべき かたこそなけれ 春霞 しきつの浦の あけぼのの空
続後撰集・夏
ほととぎす おもひもよらぬ 一声は ねぬわれさへに おどろかれけり
続後撰集・恋
しのぶるに たへずなりなば いかがせむ 逢ふにかへむと 思ふ命を
続後撰集・恋
いさりする 与謝のあま人 こよひさへ 逢ふことなみに 袖ぬらせとや