源俊頼朝臣
春のくるあしたの原を見わたせば霞もけふぞ立ちはじめける
中納言源国信
みむろ山谷にや春のたちぬらん雪のした水岩たたくなり
待賢門院堀河
雪ふかき岩のかけ道あとたゆる吉野の里も春はきにけり
前中納言匡房
道たゆといとひしものを山里にきゆるはをしきこぞの雪かな
藤原顕綱朝臣
春立てば雪のした水うちとけて谷のうぐひす今ぞ鳴くなる
大納言源隆国
山里の垣根に春やしるからんかすまぬさきにうぐひすの鳴く
源俊頼朝臣
けぶりかと室の八島を見しほどにやがてもそらのかすみぬるかな
摂政前大臣九条兼実
霞しく春の潮路を見わたせばみどりを分くる沖つしら波
前中納言匡房
わぎもこが袖ふる山も春来てぞ霞のころもたちわたりける
刑部卿頼輔
春来れば杉のしるしも見えぬかな霞ぞ立てる三輪の山もと
左兵衛督隆房
見わたせばそことしるしの杉もなし霞のうちや三輪の山もと
待賢門院堀河
ときはなる松もや春を知りぬらん初子をいはふ人にひかれて
治部卿通俊
うらやまし雪のした草かきわけてたれをとふひの若菜なるらん
源俊頼朝臣
春日野の雪を若菜につみそへてけふさへ袖のしをれぬるかな
権中納言俊忠
咲きそむる梅の立枝に降る雪のかさなる数をとへとこそ思へ
源俊頼朝臣
梅が枝に心もゆきてかさなるを知らでや人のとへといふらむ
右京大夫顕輔
梅が枝に降りつむ雪はうぐひすの羽風に散るも花かとぞ見る
久我前太政大臣源雅実
かをる香のたえせぬ春は梅の花咲きくる風やのどけかるらん
大納言源師頼
今よりは梅咲く宿は心せむ待たぬにきます人もありけり
前中納言匡房
にほひもて分かば分かむ梅の花それとも見えぬ春の夜の月