和歌と俳句

千載和歌集

白河院御製
咲きしより散るまで見れば木のもとにも日数もつもりぬるかな

後白河院御製
池水にみきはのさくら散りしきて波の花こそさかりなりけれ

大宮前太政大臣伊通
白雲と峯には見えてさくら花散ればふもとの雪にぞありける

藤原季通朝臣
吉野山花はなかばに散りにけりたえだえのこる峯のしら雲

内侍周防
山ざくらをしむ心のいくたびか散る木のもとにゆきかかるらむ

大納言長家
春雨に散る花見ればかきくらしみぞれし空の心ちこそすれ

赤染衛門
ふめばをしふまではゆかんかたもなし心づくしの山ざくらかな

前中納言匡房
山ざくら千々に心のくだくるは散る花ごとにそふにやあるらん

藤原仲実朝臣
花の散る木のしたかげはおのづからそめぬさくらの衣をぞ着る

藤原基俊
春をへて花散らましやおく山の風をさくらの心とおもはば

右兵衛督公行
あらし吹く志賀の山辺のさくら花散れば雲ゐにさざ波ぞたつ

前参議親隆
春風に志賀の山越え花散れば峯にぞ浦の波はたちける

左近中将良経
さくら咲く比良の山風吹くままに花になりゆく志賀の浦浪

右近大将実房
散りかかる花のにしきは着たれども帰らむことぞ忘られにける

権大納言実国
あかなくに袖につつめば散る花をうれしと思ふになりぬべきかな

権中納言通親
さくら花うき身にかふるためしあらば生きて散るをば惜しまざらまし

俊恵法師
み吉野の山した風やはらふらむこずゑに帰るのしら雪

源有房
ひと枝は折りて帰らむ山ざくら風にのみやは散らしはつべき

遣因法師
散る花を身にかふばかり思へどもかなはで年の老いにけるかな

賀盛法師
あかなくに散りぬる花のおもかげや風に知られぬさくらなるらん