和歌と俳句

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人麻呂
見わたせば春日の野辺に霞たち咲きにほへるは桜花かも

家持
山峡に咲ける桜をただ一目君に見せてば何をか思はむ

大伴池主
桜花今ぞ盛りと人は言へど我れは寂しも君としあらねば

家持
我が背子が古き垣内の櫻花いまだふふめり一目見に来ね

家持
今日のためと思ひて標めしあしひきの峰の上の櫻かく咲きにけり

家持
櫻花今盛りなり難波の海おしてる宮にきこしめすなへ

家持
立田山見つつ越え来し櫻花散りか過ぎなむ我が帰るとに


業平(伊勢物語・八十二)
世の中に たえてさくらの なかりせば 春の心は のどけからまし

伊勢物語・八十二
散ればこそ いとゞ櫻は めでたけれ うき世になにか 久しかるべき

素性法師
見てのみや 人にかたらむ 桜花 手ごとに折りて 家づとにせん

友則
み吉野の 山べにさける さくら花 雪かとのみぞ あやまたれける

貫之
さくら花 散らぬ松にも ならはなむ 色ことごとに 見つつ世をへむ

貫之
ゆくすゑも しづかに見べき 花なれと えしも見すぎぬ 桜なりけり

古今集 貫之
ことしより春知りそむる桜花ちるといふ事はならはざらなん

古今集 貫之
一目見し君もやくると櫻花けふは待ちみてちらばちらなん

古今集 貫之
ことならばさかずやはあらぬ櫻花みる我さへにしづ心なし

古今集 貫之
櫻花とくちりぬともおもほえず人の心ぞ風もふきあへぬ

古今集 躬恒
雪とのみふるだにあるを桜花いかにちれとか 風のふくらん

古今集 貫之
さくら花ちりぬる風のなごりには水なきそらに浪ぞたちける

古今集 伊勢
さくら花春くははれる年だにも人の心にあかれやはせぬ

古今集 伊勢
見る人もなき山ざとのさくら花外のちりなん後ぞさかまし

古今集・雑春 躬恒
さかざらむ物とはなしにさくら花おもかげにのみまだき見ゆらん

古今集・雑春 躬恒
さくら花わがやどにのみありと見ばなきものくさはおもはざらまし

後撰集 遍昭
いその神ふるの山べの桜花うへけむ時を知る人ぞなき

後撰集 素性
山守はいはばいはなん高砂のをのへの桜折りてかざさむ

後撰集 是則
桜花けふよく見てむくれ竹のひとよのほどに散りもこそすれ

後撰集 道真
さくら花主をわすれぬ物ならば吹き来む風に事づてはせよ

後撰集 よみ人しらず
わがやどの桜の色はうすくとも花のさかりはきてもをらなむ

後撰集拾遺集・雑春 貫之
ひさしかれあだに散るなと桜花かめにさせれどうつろひにけり

後撰集 返し 中務
千世ふべきかめにさせれど桜花とまらん事は常にやはあらぬ