夜くだちに寝覚めて居れば川瀬尋め心もしのに鳴く千鳥かも
夜くたちて鳴く川千鳥うべしこそ昔の人も偲ひきにけれ
杉の野にさ踊る雉いちしろく音にしも泣かむ隠り妻かも
あしひきの八つ峰の雉鳴き響む朝明の霞見れば悲しも
朝床に聞けば遥けし射水川朝漕ぎしつつ唱ふ舟人
今日のためと思ひて標めしあしひきの峰の上の櫻かく咲きにけり
奥山の八つ峰の椿つばらかに今日は暮らさねますらをの伴
漢人も筏浮べて遊ぶといふ今日ぞ我が背子花かづらせな
矢形尾の真白の鷹をやどに据ゑ掻き撫で見つつ飼はくしよしも
紅の衣にほはし辟田川絶ゆることなく我れかへり見む
年のはに鮎し走らば辟田川鵜八つ潜けて川瀬尋ねむ
磯の上のつままを見れば根を延へて年深くあらし神さびにけり
言とはぬ木すら春咲き秋づけばもみぢ散らくは常をなみこそ
うつせみの常なき見れば世間に心つけづて思ふ日ぞ多き
妹が袖我れ枕かむ川の瀬に霧立ちわたれさ夜更けぬとに
ますらをは名をし立つべし後の世に聞き継ぐ人も語り継ぐかね
時ごとにいやめづらしく咲く花を折りも折らずも見らくしよしも
毎年に来鳴くものゆゑほととぎす聞けば偲はく逢はぬ日を多み
白玉の見が行欲し君を見ず久に鄙にし居れば生けるともなし
常人も起きつつ聞くぞほととぎすこの暁に来鳴く初声
ほととぎす来鳴き響めば草取らむ花橘をやどには植ゑずて
妹を見ずて越の国辺に年経れば我が心どのなぐる日もなし
春のうちの楽しき終は梅の花手折り招きつつ遊ぶにあるべし
ほととぎす今来鳴きそむあやめぐさかづらくまでに離るる日あらめや
我が門ゆ鳴き過ぎ渡るほととぎすいやなつかしく聞けど飽き足らず
我れのみ聞けば寂しもほととぎす丹生の山辺にい行き鳴かにも
ほととぎす夜鳴きをしつつ我が背子を安寐しめゆめ心あれ