朝霧の おぼつかなきに 秋の田の 穂に出でて雁ぞ 鳴きわたるなる
をみなへし うつろひ方に なる時は かりにのみこそ 人は見みえけれ
はなすすき 穂にはおけども 初霜の 色は見えずぞ 消えぬべらなる
やへむぐら 生ひにしやどに 唐衣 誰がためにかは 打つこゑのする
おくものは 久しきものを 秋萩の したはの露の 程もなきかな
もみぢ葉の 散りしくときは ゆきかよふ 跡だに見えぬ 山路なりけり
しらなみの ふるさとなれや もみぢ葉の にしきをきつつ たちかへるらむ
ものことに 降りのみ隠す 雪なれど 水には色も 残らざりけり
ふる雪を 空に幣とぞ たむけける 春のさかひに 年の越ゆれば
から衣 新しくたつ 年なれば 人はかくこそ ふりまさりけれ
春霞 たなびく松の 年あらば いづれの春か 野辺に来ざらむ
たまほこの 道はなほまだ 遠けれど 桜を見れば 長居しぬべし
あだなりと 思ふものから さくら花 見ゆるところは やすくやは行く
松の音 殊に調ぶる 山風は 滝の糸をや すけてひくらむ
池水に 咲きたる藤を 風吹けば 波の上に立つ 波かとぞ見る
もみぢ葉は 別れを惜しみ 秋風は けふや三室の 山を越ゆらむ