和歌と俳句

能因

後拾遺集
よそにてぞ霞たなびくふるさとの都の春は見るべかりける

後拾遺集
心あらむ人に見せばや津の国の難波わたりの春のけしきを

後拾遺集
桜さへ春は夜だになかりせば夢にもものは思はざらまし

後拾遺集
世の中を思ひすててし身なれども心よはしと花に見えぬる

後拾遺集
世ゝふともわれ忘れめや桜花苔のたもとに散りてかゝりし

後拾遺集
わが宿のこずゑの夏になるときは生駒の山ぞ見えずなりゆく

後拾遺集
夜だに明けばたづねて聞かむほととぎす信太の杜のかたに鳴くなり

後拾遺集
ほととぎす来鳴かぬ宵のしるからば寝る夜もひと夜あらまし物を

後拾遺集
ひとへなる蝉の羽衣夏はなをうすしといへどあつくぞありける

後拾遺集
いかならむ今宵の雨に常夏の今朝だに露の重げなりつる

後拾遺集
秋の夜を長きものとは星合のかげ見ぬ人のいふにぞありける

後拾遺集
籬なる萩の下葉の色を見て思ひやりつる鹿ぞ鳴くなる

後拾遺集
思ふことなけれど濡れぬわが袖はうたたある野邊の萩の露かな

後拾遺集小倉百人一首
嵐吹く三室の山のもみぢばは立田の川の錦なりけり

後拾遺集
神無月ねざめに聞けば山里のあらしの声は木の葉なりけり

後拾遺集
打払ふ雪もやまなん御狩野のきぎすの跡もたづぬばかりに

後拾遺集
紅葉ゆへ心のうちにしめ結ひし山の高嶺は雪降りにけり