和歌と俳句

良寛

この宮の宮のみ坂に出で立てばみ雪降りけりいつ樫が上に

あめが下のどけき御代のはじめとて今日を祝はぬ人はあらじな

春がすみ立ちにし日より山川に心は遠くなりにけるかな

いづくより春は来ぬらん柴の戸にいざ立ち出でてあくるまで見ん

何ごとも移りのみ行く世の中に花は昔の春にかはらず

そのかみは酒に受けつる梅の花つちに落ちけりいたづらにして

いろもかも昔の春に咲きつれどあひ見し人は今宵あらなくに

きさらぎに雪の隙なく降ることはたまたま来ます君やらじとか

手折り来し花の色香はうすくともあはれみたまへ心ばかりは

春されば梅の梢に降るを花と見ながらかつ過ぎのけり

のこの春ばかり来ぬことは去年のさわぎにみまかりぬらし

ひさがたの雲井の上に鳴く雲雀今を春べとかごぬちに鳴く

山吹の花を手折りて思ふどちかざす春日は暮れずともがな

春の野に若菜つみつつ雉子の聲きけばむかしの思ほゆらくに

はふつたの別れし暮はさのつ鳥同じ思ひの音をや鳴くらん

山吹の花のさかりは過ぎにけり古里人を待つとせましに

春風に岩間の雪はとけぬれど岩間にどよむ谷川の水

あらたまの年はきえゆき年はへぬ花ぬす人は昔となりぬ

降る雪に年をまがひて咲きぬ香さへ散らずば人知るらめや

うちなびき春は来にけむ我が園の梅の林にぞ鳴く

春風に軒ばの梅はやや咲かん今宵の月よ君と共にせん

おしなべて緑にかすむ木の間よりほのかに見るは梅の花かも

霞立つ長き春日をこの宿に梅の花見てくらしつるかも

梅の花散るかとばかり見るまでに降るはたまらぬ春の淡雪

梅の花老が心を慰めよ昔の友は今あらなくに