和歌と俳句

赤染衛門

拾遺集・別
惜むともなきものゆゑにしかすがの渡ときけばただならぬかな

後拾遺集・春
むらさきの袖をつらねてきたるかな春たつことはこれぞうれしき

後拾遺集・春
かへるかり雲井はるかになりぬなりまたこむ秋も遠しとおもふに

後拾遺集・夏
鳴かぬ夜も鳴く夜もさらにほととぎす待つとて安くいやはねらるる

後拾遺集・夏
夜もすがら待ちつるものをほととぎすまただに鳴かで過ぎぬなるかな

後拾遺集・秋
今宵こそ世にある人はゆかしけれいづこもかくやを見るらん

後拾遺集・秋
起きもゐぬわがとこよこそ悲しけれ春かへりにしも鳴くなり

後拾遺集・秋
きくにだに心はうつる花の色を見にゆく人はかへりしもせじ

後拾遺集・冬
春や来る人や訪ふらん待たれけり今朝山里のをながめて

後拾遺集・賀
雲の上にのぼらんまでも見てしがな鶴の毛衣年ふとならば

後拾遺集・賀
千代を祈る心のうちのすずしきは絶えせぬ家の風にぞありける

後拾遺集・別
行く人もとまるもいかに思ふらん別れてのちのまたの別れを

後拾遺集・羇旅
越えはてば都も遠くなりぬべし関の夕風しばし涼まん

後拾遺集・哀傷
消えにける衛士のたく火の跡を見て煙となりし君ぞかなしき

後拾遺集・哀傷
ひとりこそあれ行くとこは歎きつれ主なき宿はまたもありけり

後拾遺集・恋
つれもなき人もあはれといひてまし恋するほどを知らせだにせば

後拾遺集・恋小倉百人一首
やすらはで寝なましものをさ夜ふけてかたぶくまでの月を見しかな

後拾遺集・恋
淵やさは瀬にはなりける明日香川あさきをふかくなす世なりせば

後拾遺集・恋
恨むともいまは見えじと思こそせめてつらさのあまりなりけれ

後拾遺集・恋
あすならば忘らるる身になりぬべし今日をすぐさぬ命ともがな

後拾遺集・雑歌
入りぬとて人のいそぎし月かげは出でてののちもひさしくぞ見し

後拾遺集・雑歌
風はただ思はぬかたに吹きしかどわたのはら立つ波もなかりき

後拾遺集・雑歌
消えもあへずはかなきころのつゆばかりありやなしやと人の問へかし

後拾遺集・雑歌
なげきこし道の露にもまさりけりなれにし里を恋ふるなみだは

後拾遺集・雑歌
あせにける今だにかかる滝つ瀬のはやくぞ人は見るべかりける

後拾遺集・雑歌
たのみては久しくなりぬ住吉のまづこのたびのしるしみせなむ

後拾遺集・雑歌
わればかり長柄の橋はくちにけりなにはのこともふるるかなしな

後拾遺集・雑歌
名のりせば人知りぬべし名のらねば木の丸殿をいかですぎまし