明け暮るる おなじみ空の いかなれば 今朝は今年の 初めなるらむ
たちかへる 春のあしたを ながむれば わが身をとめて 年は来にけり
あたらしき 春の初音に なりにけり しづのまろやに たまははきとる
子の日する 野辺の小松に ひきかへて かげおとろへぬ わが身ともかな
澤水に ひく裳の裾は 濡れにけり ゑぐの若葉を つみしなふとて
いざや子等 さもとの流れ 堰きわけて 小川の水に 若菜あらはむ
うつろへば たへぬ柳の 枝にゐる もも囀りの うぐひすのこゑ
うぐひすの 春をかぎらぬ 鳥ならば 過ぐる月日も 惜しまざらまし
佐保姫の いろめく春に なりにけり 霞の衣 幾重たつらむ
網引きすと 網子ととのふる しほの浦の 霞こめたる あまの呼び声
春来れば たがためにとか 青柳の かた糸に縫ふ 梅のはながさ
ひさかたの 天とぶ雁の 帰るさは 春のしらべに 立つる琴柱か
かねてより 花のこころを 知りぬれば 咲きても散らむ ことをしぞおもふ
花ゆゑに わが身ぞあやな 祈らるる 千歳の春に 逢はむとおもへば
からごろも かづく袂ぞ そぼちぬる 見れども見えぬ 春のこさ雨
かきくもり 雨はふりきぬ 水長が あしはやを舟 苫屋ふくらむ
わがせこや 花かつらせむ からくにの 昔のけふを おもふなさけに
さかづきは 誰れともささで めぐり行く 波のこころに まかせたるらむ
千載集・春
暮れてゆく 春は残りも なきものを 惜しむ心の 尽きせざるらむ
散る花を こころにそめて 寝ぬる夜の おくるあしたを 春とおもはば