和歌と俳句

藤原隆季

その人と きくに消ぬべし 露のみの しらずしらずは 過ぎけるものを

しのぶるに 名の埋もるる ものならば たれともけふは いかで知らまし

逢坂の 関のせきもり こころあれや 岩間の清水 かげをだにみむ

うちはへて かこのわたりに 引く綱の ゆくへは君に まかせたらなむ

浅からぬ 心を文に 書きのべて なぐるをりにや われをしるらむ

つつむべき あしてのあとに 忘られて また云ひそめぬ 人に見せつる

否とだに 書きける筆の なさけをば 束の間にても 忘れやはする

しのびやる ふみみつくきの うらにこそ なみの心も ゆきて隠れめ

さもといへば わが身も捨てし 朝霜の 消やすき命 千歳ともがな

うけひくは うれしかりけり 住吉の 津守の網引き わが身ならねど

眉根かき 紐解きたれて 待ためやも しゑや今宵と いひてしものを

来ますらむ 人待つ程の てすさびに わがたまとこを うちはらひつつ

をとめ子が 裳引きのすがた のみならず ふり仰ぎつる 顔もうらめし

もろともに けふぞ心は ゆきにける 人づてならぬ むつかたりして

白妙の 袖をりかへす ことぞなき まことも君に 衣重ねて

逢ひそめぬ 夜はうきねの ここちして 枕をくぐる 涙やはひし

明けぬとて 君おくる間の わりなさに しのぶ心は 暮れけるものを

立ち去らず 逢ひみる人の うきものと 明けゆく空を おもはざるらむ

なにかその 逢はぬ嘆きを おもひけむ かへるあしたの 心のみこそ

おくりつる 人の嘆きや とまるらむ おもかげにたつ あさねかみかな