和歌と俳句

藤原実定

千載集・春
梅が香に声うつりせばうぐひすの鳴くひと枝は折らましものを

千載集・春
かりにだにいとふ心やなからまし散らぬ花さくこの世なりせば

千載集・夏小倉百人一首
ほととぎす鳴きつるかたをながむればただ有明の月ぞ残れる

千載集・秋
月見ればはるかに思ふ更級の山も心のうちにぞありける

千載集・秋
山おろしに浦づたひするもみぢかないかがはすべき須磨の関守

千載集・冬
山里の垣根は雪にうづもれて野辺とひとつになりにけるかな

千載集・離別
あらずのみなりゆく旅の別れ路に手馴れし琴の音こそかはらね

千載集・哀傷
をしへおくその言の葉を見るたびにまた問ふかたのなきぞかなしき

千載集・賀歌
笛の音をよろづよまでと聞えしを山もこたふる心地せしかな

千載集・恋
人しれぬ木の葉のしたのうもれ水思ふ心をかきながさばや

千載集・恋
先に立つ涙とならば人しれず恋路にまどふ道しるべせよ

千載集・恋
朝まだき露をさながらささめ刈るしづが袖だにかくは濡れじを

千載集・恋
引きかけて涙を人につつむまに裏や朽ちなん夜半の衣は

千載集・神祇
数ふれば八年へにけりあはれわが沈みしことはきのふと思ふに

千載集・神祇
ふりにける松ものいはば問ひてましむかしもかくや住の江の月

新古今集・春
なごの海の間よりながむれば入日をあらふおきつしらなみ

新古今集・春
はかなさをほかにもいはじ桜花咲きては散りぬあはれ世の中

新古今集・秋
いつも聞く麓の里とおもへども昨日にかはる山おろしの風

新古今集・秋
夕されば荻の葉むけを吹く風にことぞともなく涙落ちけり

新古今集・冬
夕凪にとわたる千鳥なみまより見ゆるこじまの雲に消えぬる

新古今集・冬
今ぞ聞く心は跡もなかりけり雪かきわけて思ひやれども

新古今集・冬
いしばしる初瀬の川のなみ枕はやくも年の暮れにけるかな

新古今集・賀
やほかゆく浜の真砂を君が代のかずにとらなむ沖つ嶋もり

新古今集・哀傷
花見てはいとど家路ぞ急がれぬ待つらむと思ふ人しなければ

新古今集・哀傷
悲しさは秋のさが野のきりぎりすなほふるさとにねをや鳴くらむ

新古今集・恋
かくとだに思ふこころをいはせ山した行く水の草がくれつつ

新古今集・恋
覚めてのち夢なりけりと思ふにも逢ふは名残の惜しくやはあらぬ

新古今集・恋
憂き人の月は何ぞのゆかりとぞ思ひながらもうちながめつつ

新古今集・雑歌
夜半に吹くあらしにつけて思ふかな都もかくや秋は寂しき

新古今集・雑歌
朽ちにけるながらの橋を来て見れば葦の枯葉に秋風ぞ吹く

新勅撰集・春
はなざかり わきぞかねつる わがやどは くものやへたつ みねならねども

新勅撰集・夏
いくかへり けふのみあれに あふひぐさ たのみをかけて としのへぬらん

新勅撰集・夏
ほととぎす くものうへより かたらひて とはぬになのる あけぼののそら

新勅撰集・夏
さみだれに むつたのよどの かはやなぎ うれこすなみや たきのしらいと

新勅撰集・秋
このもとに またふきかへせ からにしき おほみや人に みまししかせん

新勅撰集・羈旅
くさまくら むすぶゆめぢは みやこにて さむればたびの そらぞかなしき

新勅撰集・雑歌
あらきかぜ ふきやをやむと まつほどに もとのこころの とどこほりぬる

新勅撰集・雑歌
おもへただ ゆめかうつつか わきかねて あるかなきかに なげくこころを

続後撰集・春
久堅の 天のかぐ山 てらす日の けしきもけふぞ 春めきにける

続後撰集・春
あかでのみ に心を つくすかな さりとて散らぬ 春はなけれど

続後撰集・秋
住吉の 松のうれより ひびき来て とほざと小野に 秋風ぞふく

続後撰集・秋
よとともに おなしくもゐの なれど 秋は光ぞ 照りまさりける