和歌と俳句

新古今和歌集

恋四

実方朝臣
いにしへのあふひと人は咎むともなほそのかみの今日ぞわすれぬ

返し よみ人しらず
枯れにける葵のみこそ悲しけれあはれと見ずや賀茂のみづがき

村上天皇御歌
逢ふことをはつかに見えし月影のおぼろげにやはあはれともおもふ

伊勢
さらしなや姨捨山の有明のつきずもものをおもふころかな

中務
いつとてもあはれと思ふをねぬる夜の月はおぼろげなくなくぞ見し

躬恒
更級の山よりほかに照る月もなぐさめかねつこの頃のそら

よみ人しらず
天の戸をおしあげがたの月見れば憂き人しもぞ恋しかりける

よみ人しらず
ほの見えし月を恋しと帰るさの雲路の浪に濡れて来しかな

紫式部
入る方はさやかなりける月影をうはの空にも待ちし宵かな

返し よみ人しらず
さして行く山の端もみなかき曇りこころの空に消えし月影

藤原経衡
今はとて別れしほどの月をだに涙にくれてながめやはせし

肥後
面影のわすれぬ人によそへつつ入るをぞ慕ふ秋の夜の月

後徳大寺左大臣実定
憂き人の月は何ぞのゆかりとぞ思ひながらもうちながめつつ

西行法師
月のみやうはの空なる形見にて思ひも出でば心通はむ

西行法師
隈もなき折しも人を思ひ出でてこころと月をやつしつるかな

西行法師
物思ひて眺むる頃の月の色にいかばかりなるあはれ添ふらむ

八條院高倉
曇れかしながむるからに悲しきは月におぼゆる人のおもかげ

後鳥羽院御歌
忘らるる身を知る袖のむら雨につれなく山の月は出でけり

摂政太政大臣良経
めぐりあはむかぎりはいつと知らねども月な隔てそよその浮雲

摂政太政大臣良経
わが涙もとめて袖にやどれ月さりとて人のかげは見えねど