和歌と俳句

西行

うち絶えて嘆く涙に我が袖の朽ちなば何に月を宿さん

世々経とも忘れ形見の思ひ出は袂に月の宿るばかりか

涙ゆゑくまなき月ぞ曇りぬる天のはらはらとのみ泣かれて

あやにくにしるくも月の宿るかな夜にまぎれてと思ふ袂に

面影に君が姿を見つるよりにはかに月の曇りぬるかな

夜もすがら月を見がほにもてなして心の闇にまよふころかな

秋の月もの思ふ人のためとてや憂き面影に添へて出づらん

隔てたる人の心のくまにより月をさやかに見ぬがかなしさ

涙ゆゑ常は曇れる月なれば流れぬ折ぞ晴れ間なりける

新古今集・恋
くまもなき折しも人を思ひ出でて心と月をやつしつるかな

物思ふ心のくまをのぎひうてて曇らぬ月を見るよしもがな

恋しさや思ひよわるとながむればいとど心をくだく月影

ともすれば月澄む空にあくがるる心のはてを知るよしもがな

ながむるに慰むもとはなけれども月を友にて明かすころかな

新古今集・恋
物思ひてながむるころの月の色にいかばかりなるあはれそむらん

雨雲のわりなき隙を洩る月の影ばかりだに逢ひ見てしがな

秋の月信太の杜の千枝よりもしげき嘆きやくまなかるらん

新古今集・恋
思ひ知る人有明の世なりせば尽きせず身をば恨みさらまし