うち絶えて嘆く涙に我が袖の朽ちなば何に月を宿さん
世々経とも忘れ形見の思ひ出は袂に月の宿るばかりか
涙ゆゑくまなき月ぞ曇りぬる天のはらはらとのみ泣かれて
あやにくにしるくも月の宿るかな夜にまぎれてと思ふ袂に
面影に君が姿を見つるよりにはかに月の曇りぬるかな
夜もすがら月を見がほにもてなして心の闇にまよふころかな
秋の月もの思ふ人のためとてや憂き面影に添へて出づらん
隔てたる人の心のくまにより月をさやかに見ぬがかなしさ
涙ゆゑ常は曇れる月なれば流れぬ折ぞ晴れ間なりける
新古今集・恋
くまもなき折しも人を思ひ出でて心と月をやつしつるかな
物思ふ心のくまをのぎひうてて曇らぬ月を見るよしもがな
恋しさや思ひよわるとながむればいとど心をくだく月影
ともすれば月澄む空にあくがるる心のはてを知るよしもがな
ながむるに慰むもとはなけれども月を友にて明かすころかな
新古今集・恋
物思ひてながむるころの月の色にいかばかりなるあはれそむらん
雨雲のわりなき隙を洩る月の影ばかりだに逢ひ見てしがな
秋の月信太の杜の千枝よりもしげき嘆きやくまなかるらん
新古今集・恋
思ひ知る人有明の世なりせば尽きせず身をば恨みさらまし