かぎりあれば衣ばかりはぬぎかへて心は春を慕ふなりけり
草しげる道刈りあけて山里は花見し人の心をぞ知る
まがふべき月なき頃の卯の花は夜さへさらす布かとぞ見る
神垣のあたりに咲くも便りあれや木綿かけたりと見ゆる卯の花
ほととぎす人に語らぬ折にしも初音聞くこそかひなかりけれ
ほととぎす卯月の忌に斎こもるを思ひ知りても来鳴くなるかな
里馴るるたそがれどきのほととぎす聞かず顔にてまた名乗らせん
わが宿に花橘を植ゑてこそ山ほととぎす待つべかりけれ
たづぬれば聞きがたきかとほととぎす今宵ばかりは待ちこころみん
郭公まつ心のみつくさせて聲をば惜しむ五月なりけり
待つ人の心を知らばほととぎす頼もしくてや夜を明さまし
ほととぎす聞かで明けぬと告げがほに待たれぬ鳥のねぞきこゆなる
ほととぎす聞かで明けぬる夏の夜の浦島の子はまことなりけり
ほととぎす聞かぬものゆゑ迷はまし春をたづねぬ山路なりせば
待つことは初音までかと思ひしに聞き古されぬほととぎすかな
聞きおくる心を具してほととぎす高間の山の峰越えぬなり
大堰川をぐらの山のほととぎす井堰に声のとまらましかば
ほととぎすそののち越えん山路にも語らふ聲はかはらざらなん