和歌と俳句

卯月 陰暦四月

貫之
春過ぎて卯月になれば榊ばのときはのみこそ色まさりけれ

躬恒
神まつる卯月に咲ける卯花は白くもきねがしらげたる哉

好忠
榊とる卯月になれば神山の楢のはがしはもとつ葉もなし

西行
ほととぎす卯月の忌に忌こもるを思ひ知りても来鳴くなるかな

西行
ことづくる御生のほどを過してもなほや卯月の心なるべき

式子内親王
時鳥しのびねや聞くとばかりに卯月の空はながめられつつ

千載集 藤原実清
あかでゆく春のわかれにいにしへの人やうづきといひはじめけん

新勅撰集 よみ人しらず
ちはやふる 賀茂のうづきに なりにけり いざうちむれて あふひかざさん

続後撰集・夏 右近大将公相
たちかはる けふは卯月の はじめとや 神の御室に 榊とるらむ

続後撰集・夏 藤原行家朝臣
さかき葉に 卯月の御しめ ひきかけて みむろの山は 神まつるなり


おもひ立木曾や四月のさくら狩 芭蕉

玉川を雪かと見れば四月哉 鬼貫

まつ風にほそみの出る四月かな 浪化

巫女町によききぬすます卯月哉 蕪村


一村は木の間にこもる卯月哉 子規

寐ころんで酔のさめたる卯月哉 子規

溜池に蛙闘ふ卯月かな 漱石

菊池路や麦を刈るなる旧四月 漱石

蚊の居るとつぶやきそめし卯月かな 虚子

磧はしる水筋多き卯月かな かな女

草刈の帯の赤きも卯月かな 喜舟

卯月来ぬましろき紙に書くことば 鷹女

卯月来ぬあしたあさてを寝ておもふ 鷹女

卯月来ぬ自分に飽きてゐる自分 鷹女

あやめ黄に卯月はものを思ひもす 鷹女

書よめば卯月は黄なりあやめ草 鷹女

卯月野の法隆寺なり詣でけり 尾崎迷堂

卯月野のほとけの親にあひに来し 麦南

仕入れたる茄子の小さき卯月かな 真砂女