夜の蝉に戸締りきそふ麓かな
花著莪に涙かくさず泣きにけり
花苔に父母おはす墓となりし
菖蒲園に草花の咲く径多し
水貝の冷えこゞまりて蓼青し
物の怪のつく時眠し青芒
桑の実や洋傘帯にさし写生する
子を抱く夫見るうれし風知草
磧はしる水筋多き卯月かな
薄羽織路に別れていづこかな
裁ち縫ひの傍に置く子や梅雨の入り
夏草に生く人見ゆる羨まし
薔薇の葉の蝕を見る薄暑かな
疲れ来てうすき膝なり夏の宵
大団扇三社祭を煽ぎたつ
鹿島立つ人も送らず更衣
柳の葉振舞水にうつりけり
夏帯をうすくたゝみて泊りけり
乱れたる団扇かさねて泊りけり
糸も吐かず蜘蛛の子乗りし扇かな
嵩もなく母寝し夏のふとんかな
寝てしまふ子の頼りなし冷奴
八階の上も窓なりソーダ水
濡笹をふりて蛍に歩きけり
青芒ぞんぶんぬれて帰りし子