和歌と俳句

長谷川かな女

夜の蝉に戸締りきそふ麓かな

花著莪に涙かくさず泣きにけり

花苔に父母おはす墓となりし

菖蒲園に草花の咲く径多し

水貝の冷えこゞまりて蓼青し

物の怪のつく時眠し青芒

桑の実や洋傘帯にさし写生する

子を抱く夫見るうれし風知草

磧はしる水筋多き卯月かな

薄羽織路に別れていづこかな

裁ち縫ひの傍に置く子や梅雨の入り

夏草に生く人見ゆる羨まし

薔薇の葉の蝕を見る薄暑かな

疲れ来てうすき膝なり夏の宵

大団扇三社祭を煽ぎたつ

鹿島立つ人も送らず更衣

柳の葉振舞水にうつりけり

夏帯をうすくたゝみて泊りけり

乱れたる団扇かさねて泊りけり

糸も吐かず蜘蛛の子乗りしかな

嵩もなく母寝し夏のふとんかな

寝てしまふ子の頼りなし冷奴

八階の上も窓なりソーダ水

濡笹をふりてに歩きけり

青芒ぞんぶんぬれて帰りし子