阿部みどり女
弾初や爪びきながら老の膝
袂覆うて女しのび泣くはじめ哉
灰に落ちし涙見られし泣初め
顔伏せて春着たゝめる髷太し
幌に降る雪明るけれ二の替
誰か早ポムプ使ひし初明り
母としてねぎごと多し初詣
幌の中に見る小鏡や初芝居
教へ子のみな上手なる手毬哉
つくばひの氷の上や初明り
弾初や流儀ことなる姉妹
大原の時雨るゝとあり初だより
河岸の風初荷の旗に吹き募る
うたはれし名妓老けたり二の替
門前にこの松ありて初鴉
お愛想の遣羽子遂に面白し
弾初や声つぶれをる老師匠
裁板の切山椒の落葉籠
よき衣衿もと寒し松の内
初鶏にこたふる鶏も遠からぬ
注連はるや神も仏も一つ棚
抜衣紋して薄着なる初島田
名作の鏡獅子人形去年今年
やすらかな天上に屠蘇酌み給へ
玄関に風の訪れ寝正月
初燈虚子恒友師南無阿弥陀
障子撫でる風の時折二日かな
松の内足の痛みになまけ蟲
左義長の最後の花火か眠りけり
餅花や命となりし遺影なる
餅花や静かなる夜を重ねつつ
餅花や障子に旧の十日月
足の痛み時には忘れ福壽草
福壽草悲喜の話の中に咲く
初鴉いつもの山より常の声
金の辨こぞりて開く福壽草
帯締めて貰ひしかたさ女正月