和歌と俳句

阿部みどり女

訪へば声なし金魚屋の遠くより

草を馬四角に積んで雲の峰

板三枚渡しありまひまひ藻を廻る

葭切や病人のせし舟いづこ

園広し日盛りの池の大柄杓

坂に来てもどかしき車や四方若葉

尼他行あやめ日に萎え空池に

芝生より下りて菖蒲にひくゝ居る

菖蒲湯にうめる水白く落ちにけり

若葦や風におされて水の皺

風鈴や一座句作に静まれば

頑なに情けうすからず袷人

又も雨がもたらす暗さ菖蒲池

からかさにさはるからかさ摘む

羅かけし屏風に透きて歌麿画

相背きて高く飛ぶ蝶夏よもぎ

日にかざす扇小さし舟遊び

川床に釣竿よりのとばつちり

灯の色や指遊ばせて卓のばら

葉桜にかな女が窓の開け放し

牡丹活けて昼一杯の用欠きぬ

梅雨鏡袖にぬぐひ見て客の前

青桐に寝不足よりの立ちぐらみ

金魚見るや雨やみがての傘廻しつ

独り居れば昼餉ぬきもし百日紅

肝腎な用忘れたり昼寝

避暑の宿一つの鍋に何もかも

寄り添へどとても濡れるよ夕立傘

夏園へ水仕すませて遅れ出る

耳鳴やホ句皆半ば暑さまけ

病む夫に鉢包まれて見舞薔薇

若竹に飯食うて居り時はづれ

風鈴に借浴衣して母の家

風鈴に或ひは触れて浴後人

昼寝子を其まゝにして簾かな

舟べりの手拭すぐ乾ぬ水馬

鳴くや暑く掴めるポンプの柄

風鈴に鍋釜置きて二階窓

風鈴の垣根涼しく曲りけり

下駄のまゝのながれを歩き見し

川床や簾透く日にあとじさり

鹿呼べば川渡り来る新樹かな

の宿戸障子とばす風の吹く

舞妓見てたしかに京や日傘

団扇はさみて父の歩みの老いたりし

風鈴をもらひしまゝに吊りしけり

櫛つけて清水にさつと薄油

今の劇思ひつゞけぬソーダ水

人居ねば枕を出しぬ夏桔梗