篠原鳳作
夜々白く厠の月のありにけり
コスモスの日南の縁に織りにけり
慈善鍋キネマはてたる大通り
秋の蚊のぬりつく筆のほさきかな
ままごとの子等が忘れしぬかご哉
帰り咲く幹に張板もたせけり
凍て蜜柑少し焙りてむきにけり
懐ろ手して火の種持ちにけり
山茶花の花屑少し掃きにけり
凩くるわの空に唸り居り
宮裏の一樹はおそき紅葉哉
園長の来て凍鶴に佇ちにけり
茎桶に立てかけてある箒哉
秋の蝶とぢてはひらく翅しづか
灯台の日蔭の麦を踏みにけり
籾莚踏み処なくほされけり
麦門冬の実の紺青や打ち伏せる
麦門冬の実の流れ来し筧かな
横むいて種痘のメスを堪えにけり
草餅や弁財天の池ほとり
追儺豆闇をたばしり失せにけり
古利根や洲毎洲毎の花菜畑
潰えたる朱ケの廂や乙鳥
火の山はうす霞せり花大根
方丈の縁に干しあり蕗の薹
仙人掌の垣根のうちの花大根
椽先にパナマ編みゐる良夜かな
温室をかこむキヤベツの畠かな
古庭やほかと日のある木賊の莚
城内に機音たかき遅日かな
麦門冬の実のいできたる筧かな
知紀のいほりの庭の土筆かな
陽炎や砂に坐りて蛇籠あむ
檻の中流るる水の落花哉
聖堂や棕梠の花散る石の道
春愁のうなじを垂れて夜の祈り
行く春や法衣の裾のうす汚れ
地虫穴ありて箒を止めにけり
日当れる障子のうちや二日灸
蛍の灯るを待ちて畦歩く
蛍のやがて葉裏に廻りたる