和歌と俳句

篠原鳳作

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楽の音の滝なしふるにゴム青き

楽きけり白蛾はほそき肢に堪へ

サボテンの掌の向き向きに楽たのし

ゴムの葉ににぶき光は楽に垂り

妹とあがをれば来鳴きぬ鴎らも

鴎等はかむ代の鳥かかく白き

碧玉のそらうつつばさかく白き

よるべなき声は虚空に響かへり

我妹子のいのちにひびきさはな鳴きそ

あぢさゐの花より懈くみごもりぬ

身ごもりしうれひは脣をあをくせる

白粥の香もちかづけず身ごもりし

身ごもりしうれひの髪はほそく結ふ

あぢさゐの毬より侏儒よ駆けて出よ

日輪をこぼるる蜂の芥子にあり

白芥子の妬心まひるの陽にこごる

芥子咲けば碧き空さへ病みぬべし

ゆゑしらぬ病熱は芥子よりくると思ふ

芥子燃えぬピアノの音のたぎつへに

わたの日を率てめぐりゐる花一つ

向日葵の黄に堪へがたく鶏つるむ

草灼くるにほひみだして鶏つるむ

いちぢくの実にぞのぞかれ鶏つるむ

和田津海の辺に向日葵の黄を沸かし

大空の一角にして白き部屋よ

この椅子にぬくみ与へて老いにける

昼ふかき星も見ゆべし侘ぶるとき

浪音にまろねの魂を洗はるる

海神のいつくしき辺に巣ごもりぬ

雛生れぬ真日のにほひのかなしさに

海光のつよきに触れて雛鳴けり

雛の眼に夜は潮騒のひびきけむ

雛の眼に海の碧さの映りゐる

月光のすだくにまろき女のはだ

セロ弾けば月の光のうづたかし

月光のうづくに堪へず魚はねぬ

月光のこの一点に小さき存在

ひとひらの月光より小さき我と思ふ

一掬のこの月光の石となれ

瞑れば我が黒髪も月光となる