鶴は鳴く雲の炎に身を絞り
鶴の舌赤銅の日に哭きただれ
鶴燻ゆるひろげし翼のむらさきに
鶴はなく雲の雫に盲れて
鶴昏れて煙のごとき翼ひけり
南国のこの早熟の青貝よ
潮すずし錨は肘をたてて睡る
青貝に月の匂ののこる朝
貝殻の頬幸福に日焦げつつ
雲聳ちて蟹は甲羅の干きゆく
波耀れば蟹はしづかに眸をつむる
ゆく船へ蟹はかひなき手をあぐる
水泡をいだいて蟹はかなしめり
白日の砂丘は寂し蟹こゆる
青宵のきんいろの鳥瞳に棲める
雲流れ少年はるかなる空想
少年の雲白ければむく蜜柑
青い蜜柑のにほひと白雲の匂
夕風の青い蜜柑をふところにし
蜜柑酸ゆければふるさとの酸ゆさかな
貝殻と蟹で賑はつてゐる真昼
陽炎の中へ貝殻を捨てて去る
秋は寂かにゐる雲 狐のやうな雲
秋はきいろい丘 海坂より低い丘
秋晩れていまははたはたとばぬ丘
秋はほそみちまむかうに日の没つる径
秋風の下にゐるのはほろほろ鳥
秋の壁白ければ目で鳥を描く
暗がりに坐れば水の湧くおもひ
しづけさはきみあけぼののごとく坐る
かなしさはきみ黄昏のごとく去る
恋びとは土竜のやうにぬれてゐる
黄昏は枯木がぬいだ白いシャッポ
黄昏は枯木が抱いてゐる竪琴
黄昏は枯木むかうをむいて去る
沼をみる背に灰色の都市を負ひ
枯原の風が電車にまつてくる
冬の日は墜ち一ぽんの葦のこる
枯葦を眸につめこんでたちもどる
灯よ氷柱は闇の中にある
三日月よ けむりを吐かぬ煙突