塔見えて躑躅燃えたつ山路かな
秋刀魚焼いて火逃げし灰の形かな
虫の灯に読み昂ぶりぬ耳しひ児
石に狂うて深き轍や末がるる
冬ざれや家根に煙出しのないがしろ
こまごまと抽匣もてる火桶かな
春暁や秣切る肩へ馬の息
麦ふむや畝一筋に道埃
木接ぎつつつくと思へず淋しめる
鴟尾と人小ささ何れ東風の寺
秋雨や山あきらかに京の町
緋連雀一斉に立つてもれもなし
乗りおくれし人やストーブに眉平ら
みぞるるや西空焼けに白米をよしと見る
池に立ちゐし人や枯木に逢ひ去りし
傘の輪の面白く落ちをり夜葱切る
餅花や閾劃然と台所
庭傾き映れる鏡青簾
餅花に朝の時計やかちかちと
今は酔ひて耳の遠さよお白酒
肘曲げし肌羅に動きけり
畳踏む夏足袋映る鏡かな
紅提灯揺れ揺れ氷売るるかな
牡丹や甍をめぐれる罅悲し
水を呑み呑み渉れる犬や青芒
み吉野入りの馬拵へや今年米
山裾に寺をかためて紅葉かな