朝食や卯の花腐したのしみて
弱法師ほほけた濡す清水かな
殻かかる蝉の旦の箒かな
蟻地獄掃平されつ開山忌
そろひ翔つ翠微の土のみちをしへ
蛍籠ともつてゐるや町のはし
麻崖碑を匐落つ蛍ありぬべし
沢庵の石こそ分ね黴の宿
道ばたに障子開けたる黴の宿
人形の咲満ちたりし黄菊かな
端近き今年の藁の匂かな
縁側に射したり消たり雨月かな
水澄むとくびすを停む汀かな
螽皆居向をかふる家路かな
何日も来る種の瓢の影法師
お歳暮のしるべの道の一日かな
勾当のいたはられゐる火桶かな
寒玉子即ち破つて朝餉かな
狐火にただ街道のあるばかり
こころあてなかりし街の千鳥かな
帰り咲いて一重桜となりにけり
或僧のたちいづるより冬木かな
元日の田ごとの畦の静かな
初富士を隠さうべしや深庇
遅き日やむかしながらの湯治道
遅き日や硯の上のかへりごと
大いなる柱で見えぬ寝釈迦かな
み仏の産湯かはりてにほひけり