大文字ながめがたりの世捨人
露けしとあらぬ矢向や案山子翁
碓やしらげこぼせる今年米
日あたりに下すすだれや秋日和
尼が寝にいまこそ白し月の縁
白露にないがしろなり葛の花
隠栖に露いつぱいの藜かな
大歳や門掃き直す人の声
居こぼれて日向ぼこりの尼ぜかな
大堰の築きかへらるる焚火かな
もどり路靄濃ゆかつし狩の幸
豆掴む年まちまちの杜氏かな
餅搗のみえてゐるなり一軒家
住みながらよろひつくろふ干菜かな
夕まぎる啄木鳥のゐる時雨かな
狐火やまこと顔にも一くさり
鍬初めに出てゐるたつた一人かな
立春の鳶しばし在り殿づくり
影法師わななきこぞる薪能
あらかんの口開きそろひ涅槃像
頬時雨ゆくりなかりし山葵かな
びんづるは顔あはれなる安居かな
蚊を遣りて棟隠れある翠微かな
灯をめぐり灯のまぼろしや誘蛾灯
堀舟の蚊火燃ゆるなり舟あそび
風萱に赴き怪む鹿の子かな
淀の田は涯なくみづく水鶏かな
蟻地獄みな生きてゐる伽藍かな
みちをしへ道草の児といつまでも