和歌と俳句

阿波野青畝

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大文字ながめがたりの世捨人

露けしとあらぬ矢向や案山子

碓やしらげこぼせる今年米

日あたりに下すすだれや秋日和

尼が寝にいまこそ白しの縁

白露にないがしろなり葛の花

隠栖に露いつぱいの藜かな

大歳や門掃き直す人の声

居こぼれて日向ぼこりの尼ぜかな

大堰の築きかへらるる焚火かな

もどり路靄濃ゆかつし狩の幸

豆掴む年まちまちの杜氏かな

餅搗のみえてゐるなり一軒家

住みながらよろひつくろふ干菜かな

夕まぎる啄木鳥のゐる時雨かな

狐火やまこと顔にも一くさり

鍬初めに出てゐるたつた一人かな

立春の鳶しばし在り殿づくり

影法師わななきこぞる薪能

あらかんの口開きそろひ涅槃像

頬時雨ゆくりなかりし山葵かな

びんづるは顔あはれなる安居かな

蚊を遣りて棟隠れある翠微かな

灯をめぐり灯のまぼろしや誘蛾灯

堀舟の蚊火燃ゆるなり舟あそび

風萱に赴き怪む鹿の子かな

淀の田は涯なくみづく水鶏かな

蟻地獄みな生きてゐる伽藍かな

みちをしへ道草の児といつまでも