和歌と俳句

蟻地獄 あとすざり

蟻呑みて砂おさまれり蟻地獄 播水

蟻地獄見て光陰をすごしけり 茅舎

昼深く蟻のぢごくのつづきけり 犀星

蟻地獄松風を聞くばかりなり 素十

蟻地獄みな生きてゐる伽藍かな 青畝

大いなる蟻地獄あり小さなるも 夜半

ほろびたる礎のべの蟻地獄 青畝

蟻地獄釜中の塵のはじかるる 青畝

蟻地獄ほつりとありてまたありぬ 草城

朝の路水より素し蟻地獄 しづの女

蟻地獄寸刻吝しき歩をはばむ しづの女

美しき砂をめぐりて蟻地獄 汀女

わが心いま獲物欲り蟻地獄 汀女

蟻地獄かく長き日のあるものか 楸邨

松の雨ついついと吸ひ蟻地獄 虚子

ひとつなほ数へて増す蟻地獄 誓子

手を突けば数限りなき蟻地獄 波郷

蟻地獄暮れてしまへり立ち上る 三鬼

蟻地獄砂の切口あざやかに 誓子

蟻地獄雀のこゑをふりかぶり 林火

ひとごゑをききゐるごとく蟻地獄 林火

蟻地獄ただどん底に月さして 楸邨

蟻地獄額の日月古りにけり 風生

蟻地獄寂寞として飢ゑにけり 風生

蟻地獄病者の影をもて蔽ふ 波郷

蟻地獄孤独地獄のつづきけり 多佳子

蟻地獄聖はめしひたまひけり 青畝

他者の上にさぐる同罪蟻地獄 草田男

光陰と土に鎮まる蟻地獄 蛇笏

滝の音や砂の靨の蟻地獄 不死男

及ばざる天の光りに蟻地獄 蛇笏

崖打つてのぼる濤音蟻地獄 不死男

殺生を見ざれば去りぬ蟻地獄 爽雨

風嫌ふわれに風吹く蟻地獄 不死男