和歌と俳句

栗の花

世の人の見付ぬ花や軒の栗 芭蕉

懐へおつるとひやり栗の花 土芳

栗の花筧の水の細りけり 子規

夜すがらや花栗匂ふ山の宿 子規

木曽に入りて十里は来たり栗の花 虚子

栗の花こぼれて居るや神輿部屋 碧梧桐

日高きに宿もとめ得つ栗の花 虚子

牧水
水無月の山越え来ればをちこちの木の間に白く栗の咲く見ゆ

闘ひし牛とりこめぬ栗の花 碧梧桐

照り雨や茂りの中の栗の花 碧梧桐

蚕飼して夜明くる家や栗の花 鬼城

ふきかへて栗の花散る藁家かな 鬼城

憲吉
裏山にしろく咲きたる栗のはな雨ふりくれば匂ひ来るも

茂吉
硝子ごしむかひに見ゆる栗の木の栗の白花すぎにけるかも

赤彦
谿を出でて直ちにひろき川はらの栗の木林花盛りなり

雨やんで尚さす傘や栗の花 石鼎

栗の花上ほど若くうす緑 石鼎

白秋
まさやかに今朝し垂りたりいついつと待ちにし栗のしだり房花

白秋
栗の木の花が咲きます農民芸術の木彫のナイフが日に光ります

馬の尾の静に動栗の花 虚子

いつまでも繋げる馬や栗の花 虚子

栗の花糠雨なれど降りつゞけ 喜舟

栗の花匂ふお山もありにけり 青邨

山はみな栗の花咲く高尾口 青邨

白秋
大葉栗 しろくなだるる 花群は 深大寺出でて 布田へ行く道

白秋
鳥居には 一木栗の木 花さはに 穂に咲き垂れて 代掻きの馬

ここまでは庭まだ出来ず栗の花 風生

滑かな徑にふまるる栗の花 風生

傾きて大枝あるや栗の花 青邨

栗の花ゆれさはぐなり雑木山 青邨

高々と風わたりけり栗の花 淡路女

栗の花舗装道路は野を縦に 茅舎

栗の花ひしめく闇にひとり醒む 三鬼

栗の花香のあをあをと星を染む 三鬼

栗の花高嶺がくりも丹波路や 野風呂

湯神とし祀る義家栗の花 蕪城

遠目にはあはれとも見つ栗の花 虚子

渓流も秋月城址栗の花 茅舎

栗の花白痴四十の紺絣 茅舎

栗の花ベンチに落ちてかく太し 茅舎

旅に出て病むこともなし栗の花 久女

栗の花うごけば晴れぬ窓の富士 久女

栗の花そよげば箱根天霧らし 久女

栗の花紙縒の如し雨雫 久女

母屋から運ぶ夕餉や栗の花 久女

栗の花秋風嶺に今盛り 虚子

夕焼の消えて又雨栗の花 花蓑

けさの海浅くて荒るゝ栗の花 誓子

海荒れに汐汲む海女や栗の花 誓子