筆硯の新しかりし庭若葉
肱かけてきやしやな手摺や若楓
若楓いかづち遠くなりにけり
ここまでは庭まだ出来ず栗の花
滑かな徑にふまるる栗の花
沼船に薄暑の帽を傾くる
若竹の影のちらつく写しもの
もとめ得て緑蔭くらきベンチかな
一夕立過ぎたる街のながしかな
閻王の紅蓮の舌の埃かな
夕顔の片寄せてある嵐かな
走り出て紫蘇二三枚欠きにけり
大木の吹きもまれをる蝉時雨
海女が戸の牡丹ぬるる虎が雨
蛍くれし子に何がなと思へども
黴の宿竹の落葉の降る中に
籐椅子にペルシア猫をるメロンかな
わが俳句歌より来たる曝書かな
桐の花こぼれし土になづまざる
麦藁の馬吹きゐざる風少し
うどんげにかざす佛の燈をかりぬ
とびかかる焜炉の火の粉月見草
噴井あり凌霄これを暗くせり
鮎焼くや葛を打つ雨また強く