和歌と俳句

富安風生

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草高し芍薬の花いつかなし

泡一つ抱いてはなさぬ水中花

咲あふれ牡丹なるや水中花

蜘蛛の囲の遮る径は返すべし

バス囃す小わつぱどもや独活の花

ネクタイを結ぶときふと罌粟あかし

風鈴の下にけふわれ一布衣たり

夕涼し網代の簷の深ければ

用ひざる団扇を立つる老の膝

鮎さしの鳴く音も雨の多摩河原

談笑のいと朗かに梅雨の宿

見送りの妻ばかりなる旅涼し

茂り伏屋の軒を見せじとす

旗かざし玉藻のの遊び舟

御扉の鬱金のや雨宿り

金魚らの仰向く水を見下して

瓜刻む足もとに来て蟹可愛

夕焼は膳のものをも染めにけり

土の木の根の黴や神さびぬ

薔薇を見る少女らの帽すでに白く

見張鵜らうなじを長く雲は夏

梅雨晴の雲一と流れ立葵

風鈴しやべり通し団扇とと走り

仲見世の日覆の浅き扇店

瀧の前おしろい紙がとんでゐる