和歌と俳句

夕焼け

暑き日も樅の木間の夕日かな 素堂

赤彦
夕焼くる雲もあらねば高天の奥所明るく黄に澄めるかも

赤彦
夕焼の青草ふかく真鍮の烟管を石にはたきけるかも

赤彦
伏しなびく青葦白き帆を一ぱいに張り夕焼の水

赤彦
夕やけの光の街は瓦斯の灯の青くあやしく満ちゆかんとす

夕焼けや霧這ひわたる藺田の水 龍之介

夕焼けて磔刑の主あり花圃の中 誓子

慶雲丸逐ふ隠岐丸も夕焼けぬ 野風呂

樽前は噴煙濃ゆく夕焼けす 青邨

夕焼の空のサイレン野球果つ 櫻坡子

夕焼の下に出迎母子の像 草城

夕焼や吾子の笑顔よごれたる 草城

夕焼や西へ西へと船すすむ 波津女

いくたびも山彦かへす夕焼かな 月二郎

向日葵に天よりも地の夕焼くる 誓子

夕焼の雲の中にも佛陀あり 虚子

夕焼けて出港間なき船がゐる 波津女

夕焼は膳のものをも染めにけり 風生

安南の国夕焼す薔薇とこそ 青邨

惨として大英帝国夕焼す 青邨

家二つ夕焼したり牧のはて 青邨

牧の牛闘牛のごとく夕焼す 青邨

夕焼けて水辺の松はありしかな 鷹女

こころ死を欲れり夕焼松の根に 鷹女

夕やけの野空をゆくはうのとりか 鷹女

ゆふやけの野のさみしさよ眼をつむり 鷹女

夕焼くるかの雲のもとひと待たむ 多佳子

夕焼雲鉄路は昏るる峡に入る 多佳子

夕焼や生きてある身のさびしさに 花蓑

大夕焼して靄の下七色に 石鼎

夕焼は陸にも海にも照りあまる 誓子

硝子窓隅にゆくほど夕焼濃し 彷徨子

夕焼に焼岳の噴煙黄となんぬ 青畝

遠き日のことのごとしや夕焼けて 楸邨

大夕焼一天をおしひろげたる 素逝

きはまりし夕焼人のこゑ染まる 素逝

天心へ大夕焼のゆるむなし 素逝

たちまちに大夕焼の天くづれ 素逝

夕焼けて山々の裾人家かな 汀女

横顔の夫と柱が夕焼けて 知世子

夕焼けも知らでや母は只ひとり 汀女

子を遠く大夕焼に合掌す 汀女

夕焼へ叱りすぎたる子の手執り 林火

大夕焼学童のゐぬ街となる 林火

夕焼雲たてがみひかる馬の群 林火

歩を進めがたしや天地夕焼けて 誓子