素性法師
忘れなん時しのべとぞ空蝉のむなしきからを袖にとどむる
深養父
空蝉のむなしきからになるまでも忘れんと思我ならなくに
源氏物語・空蝉
空蝉の身をかへてける木のもとになほ人がらのなつかしきかも
源氏物語・空蝉
うつせみの羽に置く露の木隠れて忍び忍びに濡るる袖かな
良経
うつせみのなく音やよそにもりの露ほしあへぬ袖を人の問ふまで
梢よりあだに落けり蝉のから 芭蕉
わくらばに取付て蝉のもぬけ哉 蕪村
淋しさにころげて見るや蝉の殻 子規
さかしまに残る力や蝉のから 子規
足六つ不足もなしに蝉の殻 子規
手に置けば空蝉風にとびにけり 虚子
うつせみをとればこぼれぬ松の膚 草城
空蝉を妹が手にせり欲しと思ふ 誓子
空蝉のふんばつて居て壊はれけり 普羅
空蝉や草のそよぎを落むとす 喜舟
つゆけくもせみのぬけがらや 山頭火
葭の風空蝉水へ落ちにける 秋櫻子
空蝉を子が拾ふ手の女なる 夜半
躓ける格好のまま蝉の殻 夜半
空蝉をひろふ流人の墓ほとり 林火
空蝉とあふのきて死にし蝉とあり 誓子
空蝉のすがれる庵のはしらかな 茅舎
無為にしてひがな空蝉もてあそぶ 茅舎
空蝉や遁げつ坂逼ふおのが影 友二
空蝉の一太刀浴びし背中かな 朱鳥
空蝉のまなこは泡の如くあり 朱鳥
空蝉の身内にも露宿りける 朱鳥
拾ひたる空蝉指にすがりつく 多佳子
空蝉も拡大鏡も子に大事 汀女
空蝉の生きて歩きぬ誰も知らず 鷹女
空蝉の背より胸腔覗かれる 誓子
空蝉を指に縋らせ寂び乙女 鷹女
蝉声の真只中の空蝉よ 鷹女
遠弟子に空蝉ひとつ天ふらす 登四郎
空蝉に跼みても御墓ひくかりき 登四郎
岩に爪たてて空蝉泥まみれ 三鬼
ながらひて目も空蝉のさらしもの 静塔
空蝉を拾い跡見る見損かな 耕衣
空蝉や迷あらたなる川も在る 耕衣
仏の裾夕焼に毀れざる空蝉 林火
空蝉もとばばやの空藍屋敷 静塔
遅筆わが手に空蝉の誇らしげ 不死男