和歌と俳句

平畑静塔

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漂ひて早乙女の家水にあり

古町の筋早乙女に歩かるる

の穴埋めを犬見定めて

杖漕ぎて漕ぎてゆらゆら牡丹来し

新茶腹五十三次惚れながら

呑みほすや新茶の味の切目なし

滴りを聞き分くるなり壁の耳

梅雨谷の電線長く大たるみ

草葉にて御岳の梅雨うくる音

富士詣うしろに身拵の霊

銀河より星は遠のく富士開

夜登りの富士は足許だけの山

うつしみの金剛杖の歩幅なる

御来光雑魚寝ふまれしまたがれし

みちをしへ富士には隠れ道はなし

富士よりも天に恥ぢらひ顔直す

富士銀座法螺吹きならす聖欲し

大の字に富士に負けたる仰臥なれ

藍染は日のべ雨のべ濃あじさゐ

ざくろ咲き織る深窓を裏におく

空蝉を置く人待ちの小坐布団

空蝉もとばばやの空藍屋敷

清水藍染しぼりても清水

陶の町風鈴耳から耳へ鳴る