和歌と俳句

平畑静塔

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涼しき身耳にあて繭をささやかす

麻干すやいらくさのまだ朝の露

多勢にて青麻引のいそがるる

麻車でる麻畑の無一物

青麻を地より抜くなり剥がすなり

釜中より青丹ゆがきのがでる

滴りは石工の岩の泣きぼくろ

郭公や時計の声は箱の中

うす繭の中ささやきを返しくる

目鼻口蚕は桑の食べざかり

花茨蛍は消えてはさまりぬ

の火川波けふの形なす

稲てらすさなかの蛍抓みとる

流蛍の上蛍火のみくだる

晴れて汗すげなく多佳子忌はすぎし

田川にて足洗ひしよ多佳子の忌

乳房礼賛多佳子忌の青田舎

多佳子忌の緑来にけり朴の花

多佳子忌や峯雲小突き合ひながら

薄減りの櫂をになへり土用波

炎昼にあそぶ漁師の眼ひそめ

雲白く遠泳の母なくならず

青胡桃みちのくは樹でつながるよ