涼しき身耳にあて繭をささやかす
麻干すやいらくさのまだ朝の露
多勢にて青麻引のいそがるる
麻車でる麻畑の無一物
青麻を地より抜くなり剥がすなり
釜中より青丹ゆがきの麻がでる
滴りは石工の岩の泣きぼくろ
郭公や時計の声は箱の中
うす繭の中ささやきを返しくる
目鼻口蚕は桑の食べざかり
花茨蛍は消えてはさまりぬ
蛍の火川波けふの形なす
稲てらすさなかの蛍抓みとる
流蛍の上蛍火のみくだる
晴れて汗すげなく多佳子忌はすぎし
田川にて足洗ひしよ多佳子の忌
乳房礼賛多佳子忌の青田舎
多佳子忌の緑来にけり朴の花
多佳子忌や峯雲小突き合ひながら
薄減りの櫂をになへり土用波
炎昼にあそぶ漁師の眼ひそめ
雲白く遠泳の母なくならず
青胡桃みちのくは樹でつながるよ