和歌と俳句

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茂吉
すべなきか 蛍をころす 手のひらに 光つぶれて せんすべはなし

茂吉
ほのぼのと おのれ光りて ながれたる 蛍を殺す わが道くらし

さみしさや音なく起つて行く蛍 鬼城

白秋
葉蘭の闇に 蛍か居らし 息づきつ つとある葉裏の 青う明るは

白秋
蛍飛ぶ 浅瀬の蛇籠 濡れ濡れて 薄けぶり立てり 月夜明りに

白秋
昼ながら 幽かに光る 蛍一つ 孟宗の藪を 出でて消えたり

白秋
一つ火の さ緑の蛍 息づき明り 雨しとどふりし 闇を今あがる

人殺す我かも知らず飛ぶ蛍 普羅

水荘の扉に楡しげる蛍かな 麦南

蛍呼ぶ子の首丈けの磧草 亜浪

放たれし蛍かや夜もすがらともす 山頭火

大屋根へひらめき逃げし蛍かな 石鼎

尻の火に横筋もゆる蛍かな 石鼎

夕空の星とわかやぐ蛍かな 石鼎

瀬をあらびやがて山のすほたるかな 蛇笏

風向きにまひおつ芋の蛍かな 蛇笏

更くる闇に蛍生臭しの風 汀女

二度ばかり弧描き消えぬ夕蛍 石鼎

籠の蛍みなあるきでし嵐かな 石鼎

地を這うて地を照らしたる蛍かな 石鼎

葉桜の風雨に光る蛍かな 石鼎

灯の下に来て知る袖の蛍かな 石鼎

螢灯の傷つき落つる水の上 虚子

のぼりつめ葉にわかれとぶ蛍かな 泊雲

鮎の脊をこがして滝の蛍かな 石鼎

赤彦
生れいでて命短しみづうみの水にうつろふ蛍の光

庭へ来し蛍に雨の光りかな 石鼎

地の苔をてらし去りたる蛍かな 石鼎

恐ろしき宇治の早瀬や昼蛍 淡路女

晶子
身に沁みて物を思へと夏の夜の蛍ほのかに青引きて飛ぶ

真夜中の町幅廣し螢とぶ 虚子

山霧に蛍きりきり吹かれたり 亞浪

一つ二つ螢見てたづぬる家 放哉

額の葉に昼を眠れる蛍かな みどり女

もれ出でて蛍いくつも籠の紗に 石鼎

葉の蛍風の蛍にただならず 石鼎

蛍火の流れ落ちゆく荒瀬見ゆ 誓子