和歌と俳句

楠目橙黄子

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やうやくに金魚の水のにごりかな

下闇や磨りし燐寸の一とあかり

初夏や草刈られたる御所の土手

波の上に流れ藻長き南風かな

五月雨や扉の外の蔵草履

五月雨や漁家の軒端の地蔵尊

夏雨や傘さして出し磯藻採り

夜の庭の灯影たのしや孔雀草

新藁や道に散らして勿体な

稲刈や朝まだきなる話ごゑ

狐火の出るといふ道行きにけり

小夜ながら紅茶の時間冬籠

行年や我家に安き旅鞄

やうやくに山近寄りし枯野かな

膝先や少しころがり毛糸玉

うるさき子遠ざけもせで火鉢かな

湯婆や我身にあらぬ膝頭ら

古妻の引き添へ風邪や又宵寝

筆硯に小柄の錆や梅二月

囀りや次第に高き日を負ふて

古株の苔のみどりや牡丹の芽

東風吹くや鱗まみれの浜女

片枝に咲き重りたる椿かな

ふるさとに旅籠住ひや蜆汁

春の炉や褞袍汚せし永やどり

剥ぎかけし積藁屑や揚雲雀

春雨や俥の幌の窓げしき

春水や苔のついたる生簀箱

春水や沈みをふせし鯉の影

人影を待てる鸚鵡や遅日宿

永き日や土塀の中の蜜柑畑

洗ひ場の石の臼目や水草生ふ

水草生ふ嵩にのりたる小舟かな

よく見ゆる島の汐干の人出かな

石段に乾く青藻や汐干潟

磯岩にまだ人居りし汐干かな

さしのぞく海の碧りや蕨山

かしこしや御所の木に間の遅桜

春雨や潮路明るき魚移り

潮ざゐに遠のく泡や春の雨

長雨や紫さめし花大根

や白浪立ちて浦渡舟

や蒼々として大玉菜

旅ごろもセル一枚の手軽さに

躍り来る提灯横に桑車

纜の沈める水や五月闇

鮎掛や前山昃る一と嵐

腰網に溌ねゐる魚や花茨

叢や打ちこぼしたる大蛍

荻の葉の高きにをりしかな

たまたまに主人も居りし門涼み

水打つて客に憚る僕かな

行々子晩潮に魚とび初めて

大濤に打ちのめされて泳ぎかな

潮浴びや隧道ぬけて荻の路

于蘭盆や大髷結うふて浦女房

突き挿しの串魚焦げて炉辺の秋

漁夫たちに人気をかしや盆芝居

柵みに真青き竹や秋の水

きくや門の灯影にいざなはれ