荒屋に春の烈風体衝り
春寒し夜されば疼く脳の芯
命小さし余寒の夜空締め出だす
冬帽の黒脱げば斑らなり黄塵
啓蟄や煙草が抉る舌の苔
疾風行春塵溜り来る睫毛
雁帰る卒然明き六区の灯
想ひ寝の覚めては遠し花の雨
躊躇へば時のうつろひはや四月
向日の性に芽吹きぬ欅楢
強東風の一日の暦消して歇む
露次の溝しらげ水泡の生める蠅
玉苣萵の早苗に跼むバス待つ間
たまゆらの月の曇りに卯月星
八重桜言霊呆と髭の顔
唐茄子の苗四五植うる狭簷下
思濃くなほ逢ひかねつ花の夜を/p>
春老いぬ一身の岐路崖の上
朝日棒状破れ戸貫き夏めける
花薊寝腹作ると啜る蕎麦
幕間や初夏の虹彩踊り段
暑気にはか人の児盗む胸の中
飾り窓夏蒲団欲し就中
恋の胸みだれ果なし火蛾を前
生死軽重ニュース凝りつく汗の面
蠅見つゝ思ふなりひとり相撲へると
空臑に蚊や微び次ぎ焦ち読む
麦笛のしらべむかしの夢かへり
華客おほ方兵等壮んに心天
箒目の幾日たてねば暑気埃
踵つぎ人来て去りぬいざ裸
青嵐樫の翠はいとけなき
わきて夜の情なし皺む一人蚊帳
瓦斯焜炉懷えつ火を噴く高音夏
久方の暁のひぐらしたまくらに
酒汲んで酔はぬしづけさ夏祭
青葉闇私語し誰何し皆胸中
短夜や匍ひ出て潜る夢の淵
怯え犬しき鳴き初夏や逢魔刻
露次いでて海行く子等の夏は来ぬ
怠れる手紙重たく松の蕊
住み慣れしかど馴染まなく蚊の家路
稲妻や江東に酒求めゆく夜
一杯屋下物莫迦貝と新生姜
混沌の放心目には瓶の蟻
友ら四万に四万や蕨もほけにけむ
静脈の黒さ汗の手吊革に