和歌と俳句

石塚友二

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かはほりや踵廻らす我門の前

声秘めて語る星空花柘榴

玉章や力めわすれての列

秘めかねし憂き目や雨の額の花

蒸す寄席に一夜のあそび梅雨に入る

終ひ鴨炙り惜しみつ簾巻き

一匹のにこだはりの灯を点す

畢に路傍の人見やりつゝ双手

水道の出ねば脱ぎにし肌の術

蚊帳吊ると夜も日もあらぬ吊るし捨

別れ来て思ひはかへる夏の月

大雷雨ひとりの蚊帳のなまぐさし

蝉しぐれ凡愚の歌よ徹らざれ

植木市師の体温に甘え蹤き

四五柱英霊に駈く噴きつ

窖にこころ横たふ炎天下

の道墓行く道と眩く

身に巣食ふ仇とたゝかふ暑き夜を

面垂れて忿怒のえ開かず

昔も今も手古奈の秘事走馬燈

方舟の目にや漾へ天の川

蓋世の露の満月身の一部

夜の酷暑氷塊惜しむ舌端に

水鉄砲避けて婦人とゆき向ふ

浴衣の紺刷く白粉の淡ければ

悔の糸夜の薔薇と甦へる

草いきれ罕の郊行手ぐさなし

空蝉や遁げつ坂逼ふおのが影

夕虹は薄れぬ置処いかにせむ

青葉闇四壁に長屋孤われのみ

燕の恋蒼空の毬と遂ぐ

緩急の銃声虫の音を間に

人の世のおほ方経しか露葎

夜更けては厠洗へる裸かな

冷房や人ゐて肚裡に澱むあり

水蜜桃固き歯応へ衆他縁

扇風器をのれぞ恃む人の中

母子ホーム出窓の百合も雨ぐもり

眉ひらく故郷三十二度とけふ

目つむるや黒白さだかに虫の闇

休日の塵用暑き雨衝きて

蝉の朝喇叭手等吹く電形音

胸閉ぢて混り食ふなり茗荷汁

食卓を書卓に西日避け移す

手花火や忘るべかりし人よ顔

昼旱鉄軌綯ひ交ふ陸橋下

病葉や荊棘の道他ならざる